≪仮説検定の考え方≫
 現行教育課程(平成30年告示の高等学校学習指導要領)では,区間推定や仮説検定は数学Bで学ぶが,数学Tだけで高等学校数学の履修を終える生徒向けに,数学Tで「仮説検定の考え方」を実際的な場面で,具体例を通して,直観的に学ぶとされている.
 2023年現在で発行されている高校数学Tの教科書で,@仮説検定という用語は,どの教科書にも書かれている.Aほとんどの教科書で,帰無仮説,対立仮説について触れられていない(備考として,ページ下端に書かれているものはある)B有意水準,棄却域という用語は,どの教科書にも書かれていない.
 数学Bを学ぶ生徒から見れば,数学Tの仮説検定は不要とも考えられ,逆に,数学Tだけで終わる生徒から見れば,数学Tの仮説検定の単元は「薄まり過ぎて目標がつかめない」かもしれない.(例えば,囲み記事で,仮説検定という考え方もありますという話題提供で終わらせていく教科書もあるように思う)
 この教材では,現在発行されている高校数学Tの教科書の範囲にとらわれず,「@仮説検定,A帰無仮説,対立仮説,B有意水準,棄却域に簡単に触れる.C確率分布表は問題中に示しておく」こととして,具体例を中心に仮説検定の考え方に慣れることを目指す.

◇簡単な例でイメージ作り(1)◇

【例題1】
 10円玉を10回投げて,表()裏()が各々何回出るか調べたところ,表が9回,裏が1回であった.
 この10円玉は,表が出やすいと言えるか?ただし,正しく作られていて表裏が同じ確率0.5で出る10円玉を10回投げたとき,おもて(残りが裏)が出る回数とその確率は,次の表の通りとする.
おもて(回)012345
確率0.001 0.010 0.044 0.117 0.205 0.246
678910
0.205 0.117 0.044 0.010 0.0011.000

(考え方)
●1 「この10円玉は,正しく作られていて,1回投げたときに表が出る確率は0.5」だと仮定する.(これを帰無仮説きむかせつ[null hypothesis]という)
●2 これに対して,「この10円玉は表が出やすい」という主張を対立仮説たいりつかせつ[alternative hypothesis]とする.
(備考1)
 仮説検定は背理法によって行われ,ある主張(対立仮説)を述べたいときに,そうではない場合に(帰無仮説を前提とした場合に)矛盾が生じる=めったに起こらないような事になるということを示すことによって,帰無仮説を否定して,対立仮説の成立を主張するという論法をとる.
 すなわち,仮説検定において,論文作成者,報告者が言いたいのは対立仮説で,そのために,言いたくない方=帰無仮説を作ってそれを否定するという回りくどい言い方をする.
●3 10円玉が正しく作られているという帰無仮説のもとで,「めったに起こらないと判断できる基準となる確率」(これを検定の有意水準ゆういすいじゅんという)を定める.有意水準としては,ほとんどの場合,0.05(5%)が用いられる.
(備考2)
 観察や実験の結果を統計データとしてまとめるとき,有意水準としては,ほとんどの場合0.05(5%)が用いられる. 95% : 5%=19 : 1 に特別な理論的意味があるわけではないが,統計データとしてまとめるときは,ほとんどの場合,0.05(5%)が使われる.他に,0.1(=10%), 0.01(=1%)なども用いられることがあるが,それらが単独で用いられることは少なく,0.05に加えて参考として書かれることが多い.
●4 正しく作られた10円玉を10回投げて9回以上出る確率は0.010+0.001=0.011 < 0.05
この確率は,有意水準よりも小さい.すなわち,こんなことはめったに起こらないはずだと言える.
そこで,帰無仮説が棄却され,対立仮説が成り立つ,すなわち,「この10円玉は表が出やすい」と判断できる.
(備考3)
 帰無仮説という用語は,変わった用語であるが,帰無仮説が成り立ってしまったら,表裏の出る確率に差がないことになる.すなわち「差がないことを仮定するから帰無仮説と呼ばれる」(*).
 なお,この用語は仮説検定の項目を学ぶときに必ず登場するので,各自で何回か使ってみて,早く慣れた方がよい・・・筆者は,初め聞いたときに「これが成り立ったら,何もなくなる.無に帰する=こっちに行ったらオシマイヨ」という意味かと思っていたが,当たらずといえども遠からずかな.
(*)「初等統計学」(P.G.ホーエル著 / 浅井晃他訳 / 培風館 p.174)
(備考4)
 有意水準は確率で,ほとんどの場合0.05(5%)を用いる.有意水準を問題に当てはめて,例えば「表が9回以上出ること」というように範囲にしたものは棄却域と呼ばれる.
 動詞的に述べるときは「帰無仮説を棄却する」「帰無仮説は棄却される」という言い方をする.

(危険な落とし穴1)
 上記の例題1と同様の問題において,10円玉を10回投げたとき,表8回,裏2回であった場合,この10円玉は表が出やすいと言えるか?という問題では,10回中8回以上表が出る確率は
0.044+0.010+0.001=0.055 > 0.05
となって,帰無仮説は棄却されない.このような場合,帰無仮説が成立すると積極的に主張することはできない.帰無仮説を棄却するだけの十分なデータがなかったということになる.
⇒データの個数を増やせば対立仮説の成立を言える場合がある.
 例題1と同様の問題でも,20回中16回表が出たとき,表が出やすいと言えるか?と考えて見ると,20回中16回以上表が出る確率は,0.005909 < 0.05(この計算には二項定理を使うので,数学Tではできなくでもよい)となって,帰無仮説が棄却され,対立仮説が成り立つ.すなわち,表が出やすいと言える.このように,8/10=16/20という割合だけでなく,データの総数によっても,確率は大きく変化する.
 この話を,内閣支持率に置き換えてみると,アンケート調査で10人中8人が内閣支持と言った場合には,内閣支持率が不支持率よりも多いかどうか明らかではないが,20人中16人が内閣支持と言った場合には,内閣支持率が不支持率よりも多いと言える.
(危険な落とし穴2)
 「10円玉を10回投げたとき,表が8回出た.この10円玉は,表が出やすいと言えるか?」という問題において,帰無仮説を前提とした場合にちょうど8回表が出る確率で判断してはいけない.表が8回も出るような10円玉は,不正ではないのか?という疑問は,8回以上出るような不公平な出方はあり得るのか⇒8回以上出る確率で判断する.
 一般に
「20回投げて表が16回出たら,表が出やすいと言えるか?」という場合は,「20回投げて16回以上表が出るのは,めったにないことなのか?」という形で,それ以上に極端なことが起こる確率で判断する.
「10回投げて表が2回出たら,表が出にくいと言えるか?」という場合は,「10回投げて2回以下しか表が出ないのは,めったにないことなのか?」という形で,それ以上に極端なことが起こる確率で判断する.

◇簡単な例でイメージ作り(2)◇

【例題2】
 サイコロを10回投げたとき,1の目()が5回出た.
 このサイコロは,1の目が出やすいと言えるか?ただし,正しく作られたサイコロを1回投げたときに1の目が出る確率は1/6で,正しく作られたサイコロを10回投げたとき,1の目が出る回数とその確率は,次の表の通りとする.
1の目(回)012345
確率0.162 0.323 0.291 0.155 0.054 0.013
678910
0.002 0.000 0.000 0.000 0.0001.000

(考え方)
●1 「このサイコロは,正しく作られていて,1回投げたときに1の目が出る確率は1/6」だと仮定する.(帰無仮説)
●2 対立仮説を「このサイコロは1の目が出やすい」とする.
●3 帰無仮説のもとで,「めったに起こらないと判断できる基準となる確率」(有意水準)を0.05とする.
●4 正しく作られたサイコロで,10回投げて5回以上1の目が出る確率は0.013+0.002+0.000+・・・=0.015 < 0.05
この確率は,有意水準よりも小さい.すなわち,正しいサイコロなら,こんなことは起こりにくい.
そこで,帰無仮説が棄却され,対立仮説が成り立つ,すなわち,「このサイコロは1の目が出やすい」と判断できる.
※例題2の問題が「サイコロを10回投げたとき,1の目が4回出た.このサイコロは,1の目が出やすいと言えるか?」という形で書かれている場合,上の表を用いて確率を求めると,0.054+0.013+0.002=0.069>0.05となり,帰無仮説は棄却されない.
 この場合,(危険な落とし穴1)で述べたように,帰無仮説が成立すると積極的に主張することはできない.帰無仮説を棄却するだけの十分なデータがなかったということになる.
【簡単チェック問題】
 ある店で新しいパンAとBを試作して,どちらが好みに合うかを客30人にアンケート調査したところ,Aのパンがよいと答えた客が20人,Bのパンがよいと答えた客が10人であった.
 この店で「Aのパンの方が好まれる」と判断できるかどうか仮説検定を行う場合,次のいずれの考え方がよいか.
(1) 「AのパンとBのパンの好まれる割合は等しい」を帰無仮説とし,「Aのパンの方が好まれる」を対立仮説とする.
(2) 「Aのパンの方が好まれる」を帰無仮説とし,「AのパンとBのパンの好まれる割合は等しい」を対立仮説とする.
(解答)
 店の考えとして「Aのパンの方が好まれる」という考えが正しいかどうか判断したいのだから,「Aのパンの方が好まれる」を対立仮説とし,言いたくない方,すなわち「AのパンとBのパンの好まれる割合は等しい」を帰無仮説として立てて,この仮説が棄却できるかどうか計算する.・・・(1)答
 (2)のように帰無仮説と対立仮説を取り替えたものでも同じ働きをするとはいえない.
 1つには,(危険な落とし穴1)で述べたように,帰無仮説が採択され場合,「Aのパンの方が好まれる」と積極的に主張することはできない.
 もう1つには,(2)の形で「Aのパンの方が好まれる」を帰無仮説とする場合,「Aのパンの方が好む人の割合」を決めないと確率の計算ができない.
 参考までに,(1)の立場で,有意水準5%の仮説検定を行うと,(Excelなどを用いて,別途計算すると)客30人中20人以上が「Aのパンがよいと答える確率」は,0.049<0.05となって,この調査から「Aのパンの方が好まれる」と判断できる.

【問題1】
 10円玉を20回投げて,表()裏()が各々何回出るか調べたところ,表が15回,裏が5回であった.
 この10円玉は,表が出やすいと言えるか?ただし,正しく作られていて表裏が同じ確率0.5で出る10円玉を20回投げたとき,おもて(残りが裏)が出る回数とその確率は,次の表の通りとする.
おもて(回)0〜23456789
確率0.000 0.001 0.005 0.015 0.037 0.074 0.120 0.160
101112131415161718〜20
0.1760.160 0.120 0.074 0.037 0.0150.0050.0010.0001.000

(解答)
●1 帰無仮説を「この10円玉は,正しく作られていて,1回投げたときに表が出る確率は0.5」とする.
●2 対立仮説を「この10円玉は表が出やすい」とする.
●3 有意水準を0.05(5%)とする.
●4 正しく作られた10円玉で,20回投げて15回以上表が出る確率
0.015+0.005+0.001+0.000=0.021 < 0.05
この確率は,有意水準よりも小さい.
そこで,帰無仮説が棄却され,対立仮説が成り立つ,すなわち,「この10円玉は表が出やすい」と判断できる.・・・(答)
【問題2】
 サイコロを60回投げたとき,1の目()が5回だけ出た.
 このサイコロは,1の目が出にくいと言えるか?ただし,正しく作られたサイコロを1回投げたときに1の目が出る確率は1/6で,正しく作られたサイコロを60回投げたとき,1の目が出る回数とその確率は,次の表の通りとする.
1の目(回)012345
確率0.0000.000 0.001 0.005 0.014 0.031

67891011
0.057 0.088 0.116 0.134 0.1370.125

121314151617
0.102 0.075 0.050 0.031 0.0170.009
18192021〜60
0.004 0.002 0.001 0.000 1.000

(解答)
●1 帰無仮説を「このサイコロは,正しく作られていて,1回投げたときに1の目が出る確率は1/6」とする.
●2 対立仮説を「このサイコロは1の目が出にくい」とする.
●3 帰無仮説のもとで,「めったに起こらないと判断できる基準となる確率」(有意水準)を0.05とする.
●4 正しく作られたサイコロを60回投げて1の目が5回以下となる確率は
0.000+0.000+0.001+0.005+0.014+0.031=0.051 > 0.05
帰無仮説は棄却されない.すなわち,「このサイコロは1の目が出にくい」とは言えない.
(備考)
 0.05と比べてわずかに多いだけであるが,帰無仮説は棄却されない.
 結果的に,この程度の増減なら,確率的には珍しいことではなく,時々起こってもおかしくないという判断になる.
 なお,棄却域は,確率p<0.05(有意水準)で判断する(珍事でp=0.05となっても,帰無仮説は棄却されないと割り切ること)

【問題3】
 10円玉を20回投げて,表()裏()が各々何回出るか調べたところ,表が5回,裏が15回であった.
 この10円玉は,正しく作られていると言えるか?ただし,正しく作られていて表裏が同じ確率0.5で出る10円玉を20回投げたとき,おもて(残りが裏)が出る回数とその確率は,次の表の通りとする.
おもて(回)0〜23456789
確率0.000 0.001 0.005 0.015 0.037 0.074 0.120 0.160
101112131415161718〜20
0.1760.160 0.120 0.074 0.037 0.0150.0050.0010.0001.000

(解答)
 2023年4月に,前払い注文後1か月待ちで入手できた高校数学Tの教科書は,3冊(S社,K社,D社)だった.当然のことながら,高校数学Tの教科書では「両側検定」「片側検定」には触れられていない.
 ただ,web教材では,高校1年生ばかりでなく,大学生・社会人から「両側検定と片側検定のどちらが正しいのですか」といった素朴な質問が多いので,ここで簡単に触れておく.
 正しく作られた10円玉ならば,20回投げたときはその半分程度,すなわち10回ほど表が出るはずであるが,表が5回だけ出たということは,予想よりも少ない.
 このとき「この10円玉は,表か裏かのどちらかが出やすい形になっているのではないか」と疑うことができる.このように,表が出やすい場合も出にくい場合も調べるものを両側検定という.これに対して,表が出にくい場合だけ,または表が出やすい場合だけを調べるものを片側検定という.
片側検定

 両側検定において有意水準5%とするときは,左右の端に確率2.5%ずつの棄却域を考える.
(危険な落とし穴3)
 片側検定か両側検定かは,集められたデータで決まる訳ではない.また,どちらかが正しくて,どちらかが間違っているということではない.
 片側検定にするか両側検定にするかは「データの分析者・報告者が,何に関心があるか.何を調べたいのか.何を主張したいのかによって決まる」.すなわち,片側検定にするか両側検定にするかを決めるのは,分析者・報告者であるが,主張したい内容に対応した検定を選ばなければならない.
 この問題では「この10円玉は,表が出にくい」という判断が正しいかどうかを調べるには,片側検定を使い,「この10円玉は,表か裏かのどちらかが出やすい形になっている」という判断が正しいかどうかを調べるには,両側検定を使う.

●1 帰無仮説を「この10円玉は,正しく作られていて,1回投げたときに表が出る確率は0.5」とする.
●2 対立仮説を「この10円玉は,表か裏かのどちらかが出やすい形になっている」とする.
●3 有意水準を0.05(5%)とする.
●4 正しく作られた10円玉を20回投げて表が出る回数が5回以下または15回以上となる確率
(0.000+0.001+0.005+0.015)×2=0.042<0.05
 この確率は,有意水準よりも小さい.
 したがって,帰無仮説は棄却される.すなわち,「この10円玉は,表か裏かのどちらかが出やすい形になっている」と言える.・・・(答)
(参考)
 この問題を片側検定で行うのは,次のような場合になる.
 分析者・報告者が「この10円玉は,表か出にくい」のではないかという疑いをもって,これを証明してみようと考えた場合である.この場合には,正しく作られた10円玉を20回投げて表が出る回数が5回以下となる確率
0.000+0.001+0.005+0.015=0.021<0.05
となるから,帰無仮説が棄却されて,「この10円玉は,表か出にくい」と言える.
【問題4】
 ある店で試作したパンAとBの好みについて,客20人にアンケート調査したところ,Aのパンがよいと答えた客が15人,Bのパンがよいと答えた客が5人であった.
 この店で「Aのパンの方が好まれる」と判断してよいか?ただし,A,Bを好む人の割合が等しいときに,20人の回答者のうちでAのパンがよいと答える人数とその確率は次の表の通りとする.
A(人)0〜23456789
確率0.000 0.001 0.005 0.015 0.037 0.074 0.120 0.160
101112131415161718〜20
0.1760.160 0.120 0.074 0.037 0.0150.0050.0010.0001.000

(解答)
●1 帰無仮説を「A,Bを好む人の割合が等しい」とする.
●2 対立仮説を「Aのパンの方が好まれる」とする.
●3 有意水準を0.05(5%)とする.
●4 A,Bを好む人の割合が等しいときに,20人のうちで15人以上の人が,Aのパンがよいと回答する確率
0.015+0.005+0.001+0.000=0.021<0.05
 この確率は,有意水準よりも小さい.
 したがって,帰無仮説は棄却される.すなわち,「Aのパンの方が好まれる」と言える.・・・(答)

【問題5】
 ある町では,60%の人が朝食にパンを食べることが分かっている.この町で,小学生20人にアンケート調査したところ,朝食にパンを食べると答えた児童が8人であった.
 この町で「朝食にパンを食べる児童は60%よりも少ない」と判断してよいか?ただし,この町の20人の回答者のうちで朝食にパンを食べると答える人数とその確率は次の表の通りとする.
パン(人)0〜4567891011
確率0.000 0.001 0.005 0.015 0.035 0.071 0.117 0.0160
1213141516171819〜20
0.1800.166 0.124 0.075 0.035 0.0120.0030.0001.000

(解答)
●1 帰無仮説を「朝食にパンを食べる児童は60%に等しい」とする.
●2 対立仮説を「朝食にパンを食べる児童は60%よりも少ない」とする.
●3 有意水準を0.05(5%)とする.
●4 「朝食にパンを食べる児童は60%に等しい」ときに,20人のうちで8人以下の児童がパンを食べると回答する確率
0.000+0.001+0.005+0.015+0.035=0.056 > 0.05
 したがって,帰無仮説は棄却されない.すなわち,「朝食にパンを食べる児童は60%よりも少ない」とは言えない.・・・(答)
※この問題では,資料の個数が少な過ぎるので,はっきりとした結論ができないが,調査の人数を増やした場合,例えば40人中の16人がパン食だと答えた場合は,帰無仮説を棄却して,「朝食にパンを食べる児童は60%よりも少ない」と言えるようになる.
【問題6】
 ある授業を,従来方式の教室・対面型で行った場合と,ビデオを用いたリモート方式で行った場合の好感度について,大学生40人にアンケート調査したところ,従来方式がよいと回答した者が14人,リモート方式がよいと答えた者が26人であった.
 「従来方式とリモート方式とで好感度に差がある」と言えるか?ただし,好感度に差がないときに40人の回答者のうちで従来方式がよいと答える人数とその確率は次の表の通りとする.
従来方式(人)0〜1415〜2526〜40
確率0.04 0.92 0.04 1.00
(解答)
●1 帰無仮説を「好感度に差がない」とする.
●2 対立仮説を「好感度に差がある」とする.
従来方式がよいと回答した者が多い場合も,少ない場合も数える・・・すなわち,両側検定とする.(質問の意味から考えて,どちらが多くても差異があると言える)
●3 有意水準を0.05(5%)とする.
●4 40人のうちで14人以下または26人以上の学生が従来方式がよいと回答する確率
0.04+0.04=0.08 > 0.05
したがって,帰無仮説は棄却されない.すなわち,「好感度に差がある」とは言えない.・・・(答)

【仮説検定の考え方】・・・まとめ
●1 分析者が主張したい事柄を対立仮説,それを否定する事柄を帰無仮説とする.
帰無仮説は,比較している2つの事柄に差がない,等しいことの仮定となっているようにする.
帰無仮説を仮定したときに,めったに起こらないような極端に外れたものが対立仮説になっているように選ぶ.
●2 有意水準を0.05(5%)とする.これにより,帰無仮説を仮定すれば,めったに起こらないような棄却域が決まる.
●3 上記の●1,●2に照らし合わせたとき,与えられた観察・実験の結果から計算された確率が棄却域に入れば,帰無仮説を棄却して対立仮説の成立を言う.
10回中8回起こったことが多いかどうかを調べるとき,ちょうど8回起こる確率ではなく,8回以上というような極端なことが起こる確率を計算する.
ダイエットに効果があったかどうか,成績がよくなったかどうかのように,比較したいことよりも小さいかどうか,大きいかどうかを調べたいときは片側検定とする.
 とにかく差があるかどうかを調べるときは両側検定とする.
 両側検定では,左右それぞれ2.5%,合計5%の区間を棄却域とする.
帰無仮説が採択されたときは,帰無仮説が積極的に肯定されたのではなく,帰無仮説を棄却する根拠が不十分だったということになる.
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