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このページでは,2次〜3次の正方行列に対して,対角化,ジョルダン標準形を利用して行列のn乗を求める方法を調べる. 【ジョルダン標準形】 線形代数の教科書では,著者によって,[A] 対角行列を含めてジョルダン標準形と呼ぶ場合と,[B] 用語として対角行列とジョルダン標準形を分けている場合があるので,文脈を見てどちらの立場で書かれているかを見分ける必要がある. [A] ジョルダン標準形
[B]
対角行列
ジョルダン標準形
[A]はすべてのジョルダン細胞が1次正方行列から成る場合が正方行列であると考える.(言葉の違いだけ)
3次正方行列の場合を例にとって,以下のこのページの教材に書かれていることの要約を示すと次の通り.
【要約】
はじめに与えられた行列 (1) 固有値 となる固有ベクトル とおくと,この変換行列は正則になる(逆行列 固有値を対角成分にした対角行列を とおくと もしくは が成り立つ. このとき,
この教材に示した具体例
対角行列は行列の積としての累乗が容易に計算できるので,これを利用して行列の累乗を計算することができる.【例1.1】 【例1.2.1】 【例1.2.2】 【例1.3.1】 【例1.3.2】 |
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(2) 固有方程式が重解をもつ場合,
なお,2次正方行列で固有値が重解@) 元の行列自体が対角行列であるとき これらの行列は,変換するまでもなく対角行列になっているから,n乗などの計算は容易にできる. A) 上記の@)以外で固有方程式が重複解をもつとき,次のようにジョルダン標準形と呼ばれる形にできる A) 重複度1の解
a) 任意のベクトル
B) 三重解となる列ベクトル で定まる変換行列 と書くことができる.
この教材に示した具体例
b) ≪2次正方行列≫ 【例2.1】(1) 【例2.2.1】【例2.2.2】【例2.2.3】【例2.2.4】 ≪3次正方行列≫ 【例2.1】(2) 【例2.3.1】 【例2.3.2】 となる列ベクトル で定まる変換行列 と書くことができる.
この教材に示した具体例
【例2.3.3】 【例2.3.4】 【例2.3.5】
a) 任意のベクトル
となるベクトル で定まる変換行列 と書くことができる.
この教材に示した具体例
【例2.4.3】 【例2.4.4】
b) 任意のベクトル
となるベクトル で定まる変換行列 と書くことができる.
この教材に示した具体例
【例2.4.1】 【例2.4.2】 が成り立てば,平面上の任意のベクトルは となる.したがって となり,このようなことが起こるのは 同様にして,3次正方行列で固有値が三重解となる場合において,1次独立な3つのベクトル が成り立てば,空間内の任意のベクトルは となる.したがって となり,このようなことが起こるのは これらが(2)@)に述べたものである. |
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1.1 対角化可能な行列の場合
与えられた行列から行列の累乗を求める計算は一般には難しい.しかし,次のような対角行列では容易にn乗を求めることができる.ここで, 同様にして,一般に次の式が成り立つ. 両辺に左から このように,
【例1.1】
(1)(1) (2) すなわち が成り立つから (2) が成り立つ.すなわち |
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1.2 対角化できる場合の対角行列の求め方(実際の計算)
2次の正方行列一次変換 となることをいう. 同様にして,固有値 一次変換 となることをいう. (1)(2)をまとめると次のように書ける. 固有値が相異なり重複解を持たないとき,すなわち そこで, すなわち の形で対角化できることになり,対角行列は累乗を容易に計算できるので により |
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【例1.2.1】
(解答)(1) 固有方程式を解く 固有ベクトルを求める ア) すなわち より 1つの固有ベクトルとして, イ) すなわち より 1つの固有ベクトルとして, ア)イ)より まとめて書くと |
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【例1.2.2】
(解答)(2) 固有方程式を解く 固有ベクトルを求める ア) すなわち より1つの固有ベクトルとして, 同様にして イ) ウ) 以上の結果をまとめると |
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1.3 固有値が虚数の場合
正方行列に異なる固有値のみがあって,固有値に重複がない場合には,対角化できる.元の行列が実係数の行列であるとき,実数の固有値であっても虚数の固有値であっても重複がなければ対角化できる. 元の行列が実係数の行列であって,虚数の固有値が登場する場合でも行列のn乗の成分は実数になる---虚数の固有値と言っても共役複素数の対から成り,それらの和や積で表される行列のn乗は,実数で書ける.
【例題1.3.1】
(解答)次の行列 固有方程式を解く 固有ベクトルを求める ア) より イ) より ア)イ)より ゆえに,行列
この表を使ってまとめると
1)n=4kのとき 2)n=4k+1のとき 3)n=4k+2のとき 4)n=4k+3のとき
原点の回りに角θだけ回転する1次変換
に当てはめると, で左の計算と一致する |
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【例題1.3.2】
(解答)次の行列 固有方程式を解く 固有ベクトルを求める ア) より イ) より ア)イ)より ゆえに,行列 ここで複素数の極表示を考えると ここで, だから 結局 以下 このように,元の行列の成分が実数であれば,その固有値や固有ベクトルが虚数であっても,(予想通りに)n乗は実数になることが示せる. (別解) 原点の回りに角θだけ回転して,次に原点からの距離をr倍することを表す1次変換の行列は であり,与えられた行列は と書けるから ※回転を表す行列になるものばかりではないから,前述のように虚数の固有値,固有ベクトルで実演してみる意義はある. |
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2.1 対角化はできないがそれに近い形にできる場合
行列の固有値が重解になる場合などにおいて,対角化できない場合でも,次のように対角成分の1つ上の成分を1にした形を利用すると累乗の計算ができる.
【例2.1】
(1)(1) (2) すなわち が成り立つから (2) が成り立つ.すなわち |
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2.2 ジョルダン標準形の求め方(実際の計算)
【例題2.2.1】
(解答)(1) 次の行列 固有方程式を解いて固有値を求める 固有ベクトルを求める すなわち より1つの固有ベクトルとして,
[以下の解き方@]
となる
いきなり,そんな話がなぜ言えるのか疑問に思うかもしれない.
両辺の成分を比較すると実は,この段階では だから, 1つの固有ベクトルとして, これにより すなわち (参考) この後,次のように変形すれば問題の行列Aのn乗が計算できる. |
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[以下の解き方A]
1つの固有ベクトルとして, (参考) この後,次のように変形すれば問題の行列Aのn乗が計算できる. この結果は@の結果と一致する |
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[以下の解き方B]
線形代数の教科書,参考書には,次のように書かれていることがある. 行列 これらの式の意味は次のようになっている
(1)は固有値が
を移項すれば として(1)得られる. これに対して,(2)は次のように分けて考えると を表していることが分かる. を列ベクトルに分けると が(1)を表しており が(2)を表している. (2)は と書ける.要するに(1)を満たす固有ベクトルを求めてそれを を満たす 以上のことは行列とベクトルで書かれているので,必ずしも分かり易いとは言えないが,解き方@において となる
【解き方Bのまとめ】
となるベクトル は,元の行列 が成り立つ. |
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[以下の解き方B] 実際に解いてみると・・・ 行列 そこで,次の方程式を解いて, (1)より したがって, そこで, 次に(2)により したがって, そこで, |
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[解き方Bの2]・・・別の解説 線形代数の教科書,参考書によっては,次のように解説される場合がある. はじめに,零ベクトルでない(かつ固有ベクトル 前の解説と(1’)(2’)の式は同じであるが,「 とおくと この場合,任意のベクトルは固有ベクトル 例えば,任意のベクトルを となって が得られる. 初め慣れるまでは,考え方が難しいが,慣れたら単純作業で求められるようになる. |
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【例題2.2.2】
(解答)次の行列のジョルダン標準形を求めて, より よって,1つの固有ベクトルは
(解き方@)
このベクトル とおくと となれば,対角化はできなくても,それに準ずる上三角化ができる. ゆえに, 例えば1つの解として とすると, すなわち となるから 結局 |
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前述において,(解き方@)で示した答案は,(**)を満たす他のベクトルを使っても,同じ結果が得られる. (解き方A) 例えば1つの解として とすると, すなわち となるから 結局 となって,結果は等しくなる. (解き方B) 行列 そこで,次の方程式を解いて, (1)より したがって, そこで, 次に(2)により そこで, 以下は(解き方@)(解き方A)と同様になる. (解き方Bの2) 例えば となり これを気長に計算すると,上記(解き方@)(解き方A)の結果と一致する. |
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【例題2.2.3】
(解き方@1)次の行列のジョルダン標準形を求めて, 固有方程式を解く より よって,1つの固有ベクトルは そこで となる より すなわち となるから |
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(解き方A) (**)において すなわち となるから (解き方B) 行列 そこで,次の方程式を解いて, (1)より したがって, そこで, 次に(2)により そこで, 以下は(解き方@)と同様になる. (解き方Bの2) 固有ベクトル を定めると すなわち となるから |
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【例題2.2.4】
(解き方@)次の行列のジョルダン標準形を求めて, 固有方程式を解く より よって,1つの固有ベクトルは そこで となる より すなわち となるから |
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(解き方A) (**)において すなわち となるから (解き方Bの2) 固有ベクトル を定めると すなわち となるから |
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2.3 3次正方行列で固有値が二重解になる場合
3次正方行列をジョルダン標準形にすると,行列のn乗が次のように計算できる
【例題2.3.1】
(解き方@)次の行列のジョルダン標準形を求めてください. 固有方程式を解く 固有ベクトルを求める ア) より イ) より これら2つのベクトルと1次独立なベクトルをもう1つ求める必要があるから となるベクトル 以上により となる |
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(解き方Bの2) を定める. たとえば, |
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【例題2.3.2】
(解き方@)次の行列のジョルダン標準形を求めてください. 固有方程式を解く 固有ベクトルを求める ア) より イ) より これら2つのベクトルと1次独立なベクトルをもう1つ求める必要があるから となるベクトル 以上により となる |
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(解き方Bの2) を定める. たとえば, |
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2次正方行列が二重解をもつとき,元の行列自体が単位行列の定数倍である場合を除けば,対角化できることはなくジョルダン標準形 になる. これに対して,3次正方行列が1つの解 となる列ベクトル で定まる変換行列 と書くことができる.
【例題2.3.3】
固有方程式を解く次の行列が対角化可能かどうか調べてください. 固有ベクトルを求める ア) イ) これを満たすベクトルは独立に2個できる 以上により 変換行列 すなわち |
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【例題2.3.4】
(略解)次の行列が対角化可能かどうか調べてください. 固有値 固有値 対角化可能
【例題2.3.5】
(略解)次の行列が対角化可能かどうか調べてください. 固有値 固有値 対角化可能 |
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2.4 3次正方行列で固有値が三重解になる場合
3次正方行列をジョルダン標準形にすると,行列のn乗が次のように計算できる
三重解の場合,次の形が使えることがある. 次の形ではかなり複雑になる
【例題2.4.1】
(解き方@)次の行列のジョルダン標準形を求めてて,n乗を計算してください. 固有方程式を解く 固有ベクトルを求める これを満たすベクトルは1次独立に2つ作れる 正則な変換行列を作るには,もう1つ1次独立なベクトルが必要だから次の形でジョルダン標準形を求める より 以上により n乗を計算するには,次の公式を利用する |
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(解き方Bの3) 1次独立なベクトルの束から作った行列 が次の形でジョルダン標準形 となるようにベクトル 両辺を列ベクトルに分けると すなわち そこで,任意の(ただし,後で求まるベクトル 例えば, (1’)は次の形に書ける このとき, について, 変換行列は解き方@と同じではないが,n乗の計算を同様に行うと,結果は同じになる |
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【例題2.4.2】
(略解:解き方B)次の行列のジョルダン標準形を求めください. 固有方程式は三重解 これに対応する固有ベクトルを求める より これを満たすベクトルは独立に2つ選べる これらと独立にもう1つベクトル となるベクトル 以上により 正則な変換行列 ジョルダン標準形 として が成り立つ. |
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【例題2.4.3】
(解き方Bの2)次の行列のジョルダン標準形を求めて,n乗を計算してくださいください. 固有方程式を解く 次の形でジョルダン標準形を求める 正則な変換行列は3つの1次独立なベクトルを束にしたものとする 両辺を列ベクトルに分けると すなわち 次の順に決める:任意の(ただし,後で求まるベクトル 例えば とおくと となる. 以上がジョルダン標準形である n乗は次の公式を使って求める |
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【例題2.4.4】
(解き方Bの2)次の行列のジョルダン標準形を求めて,n乗を計算してくださいください. 固有方程式を解く 変換行列を求める. 任意のベクトル となる 例えば,次のように定まる. だから とおくと により さらに により なお が成り立つ.
(#1)は
以上によりすなわち を表している. (#2)は すなわち を表している. (#3)は すなわち を表している. (#1’)(#2’)(#3’)より変換行列を (右辺のジョルダン標準形において,1列目の に対して,変換行列 ジョルダン標準形 とおくと が成り立つ.すなわち だから |
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